11歳の5月。
1年間スイッチを入れ続けた成果を発揮する場所に立った僕。
この時の僕は「やってやる!!」という強い気持ちがあったように思います。
肉体面だけでなく、精神面も大きく成長していたのだと思います。
一つのコトに夢中になったことにより、目的に向かう姿勢であったり、目的を達成するためには積み重ねが大切だということをいつの間にか学ぶことが出来ていました。 それは肉体以上に精神も鍛えることが出来ていたということだと思います。
結果がどうであれ、こういった経験を小学生の間に経験出来ていたのは僕にとって本当に良かったことだと思っています。
さて、僕にとって大きな大会に臨むことになったわけなのですが、大会会場は奇しくも1年前と同じ公園の中にある土俵。 はっきりと覚えてはいませんが、1年前のことが蘇ることもなく、大きく心を乱すことはなかったように思います。
こういった大会に参加すると、まずすることがトーナメント表の確認です。 恐らく参加する選手はみんな同じ様に確認していたのではないかと思います。
僕が一番気になっていたのは、一年前に僕の前に現れたとてつもなく大きな彼です。 そう、準決勝で歯が立たなかった彼です。
確認してみると、今年も準決勝で彼との対戦が控えていることが分かりました。
昨年のリベンジを一つの目的にしていた僕にとっては、そのリベンジを果たす大きなチャンスが巡ってきたのです。
1年前に乗り越えることが出来なかった準決勝。 そして彼という大きな存在。 その2つを乗り越えることが出来た先にはどんな景色が見えるのか。 そんな気持ちを子どもながらに抱えていたように思います。
今はどうか分かりませんが、当時のわんぱく相撲では結構な人数が参加していたように思います。 参加する子どもたち全員が僕と同じテンションかどうかは分かりかねますが、少なく見積もっても、結構な人数、本気でこの大会に臨んでいたように思います。
大きな目的の全国大会の切符を手にするためには、5回は勝たないといけなかったように思います。 そう考えると結構な人数の参加者だったように思います。
そんな中、順調ではありませんでしたが(色々ありましたが端折ります。 )一つ一つコマを進めていきます。 お目当ての彼も順調にコマを進めている様子です。
その様子を見ていると成長したのは僕だけでなく、彼も成長していることが分かりました。 1年前と違い彼の体も更に大きくなっています。 そして、僕が毎日稽古していたのと同じように、彼もこの日に向けてしっかり準備をしてきたことが分かりました。
彼が1年前の全国大会で割と早い段階で負けてしまったという情報は知っていました。 きっと彼なりに全国大会に照準を合わせて準備を進めていたのだと思います。
そんな彼の存在は本当に大きなものでした。
僕が1年間スイッチを入れ続けることが出来たのは彼という存在があったからだと思います。 彼に勝ちたいという強い思いがあったから1年間頑張ることが出来たのです。
そして、そんな彼との対戦が準決勝で実現するのでした。
彼は順調に、僕は色々ありながらもなんとか準決勝に進みます。 僕にとっての大一番です。 それは僕だけではなかったように思います。 僕を支えてくれた両親や相撲クラブの大人たち、友だち、おでこにはっきりと「スーパーファミコン」と書かれている兄。 みんなが見守る中での勝負だったように思います。
思いっきりぶつかりました。 彼の圧力はすごかったように思います。 それでも思いっきり行こうと思っていたし、それを実行することも出来ました。 でも一気に土俵際まで押し込まれます。 でも体が勝手に動いていました。前まわしを掴んだ腕を軸にくるっと回転。 形成は逆転し、そこから一気に押し出すことが出来たのでした。
大きな歓声が上がったと聞いています。 僕や彼のことを知らない見ている人たちも二人から何かを感じていたのだと思います。 後で聞いたのですが、その日一番の歓声だったと聞きました。
僕にとっての大きな存在をまず一つ乗り越えることが出来たのでした。
そして決勝戦。 大きな存在を超えることができ、大きな自信を得ることが出来た僕にはもう怖いものは何もありませんでした。 決勝戦では相手を大きく投げることが出来た僕の勝利。 この瞬間 、もう一つの大きな目的「全国大会出場」の切符を手にすることが出来たのでした。
応援席では涙を流している母や顔をしわくちゃにして喜んでいる父。
僕にとって見たことのない景色がそこにあったように思います。親からすると心配事の絶えない次男坊の僕。そんな僕の人生の中でも数少ないサクセスストーリーになったように思います。
当時流行っていた週刊少年ジャンプに「友情・努力・勝利」という謳い文句がありましたが、この時点で努力と勝利の花は僕の中に咲いたように思っています。
そして、僕が目指していた大きな彼との間に友情も芽生えます。
午前中に団体戦で優勝していた彼も実は全国大会の切符を手にしていたのです。6年生の2枠を団体戦優勝の彼と個人戦優勝の僕が埋めることになったのです。
全国大会では前日に相撲部屋に宿泊します。その相撲部屋では仲良く二人で色んな話をしました。どんな話をしたのかまでは覚えていませんが、6年生の子どもらしい話をたくさんしていたことだろうと思います。
切磋琢磨した二人の関係はとても良かったように思います。
全国大会でも互いの事を気遣いながら、彼はベスト16まで、僕はベスト8まで進むことが出来ました。
彼がいたから1年間という長い間スイッチを入れ続けることが出来たように思います。そして、彼がいたからたくさんの事を経験することが出来たように思います。
今彼はどこで何をしているかは分かりません。
僕は途中でラグビーに転向し、今は小学校の教師としてこの時の経験を活かして頑張っています。
彼は高校生の時にレスリングに転向したということまでは聞いています。そして国体に出場したとかしなかったということは聞いています。
僕と同じ経験を積むことが出来た彼も、きっと頑張っていることだろうと思います。
5年生の時に悔し涙を流したことをきっかけにスイッチが入った僕の経験。長い話になりましたが、いつかはこの話を文章にしたいと考えていました。
自分のために綴った、僕の小さなサクセスストーリー。
本当に良い経験が出来たように思っています。そして、それを糧にこれからも僕らしく心地良く過ごしていきたいと思います。