先日、ネットであるニュースを目にしました。
「教え子へ送る黒板アート」と題されたニュースです。
毎日、子どもたちへの一言メッセージを欠かすことなく続けている小学校教師。大きな行事などがある節目の日にはメッセージだけでなく、黒板を使った絵、いわゆる「黒板アート」を描いているというニュースです。
2時間ほど掛けて描かれる黒板アート。ネットニュースでは、その一生懸命な教師の姿を肯定的に報じている印象が持たれました。
確かに、子どもたちの喜ぶ姿を想像しながら描いているその教師の姿勢は情熱的で、子どもたちのために一生懸命になることが出来るという理想的な教師像があるのかもしれません。
ただ、僕はこのニュースに怖さを感じたりもしました。
それは、こういった「黒板アート」を書くことだけが正解ではないという思いがあるからです。
この教師の一生懸命さや情熱には尊敬の気持ちを持つべきなのかもしれません。ただ、教師をしている人がみんなこの教師と同じことが出来るかというと、僕は違うと思っています。
違和感を感じたのは、2時間の時間をかけて黒板アートを描いているということです。
恐らく、この教師が黒板アートを描いている時間は勤務時間外になると思います。
忙しく日々の業務をこなしている世の教師。勤務時間内に黒板に絵を描く時間を2時間も取ることは難しいことだと思います。
もちろん、人によっては時間の使い方が上手で、夏休みなどの長期休業中に絵を描く時間を作ることは可能かもしれません。
でも、それは夏休みと冬休みの長期休業中くらいのものです。
そう考えると黒板アートを描けるのは、夏休み明けの始業式と、冬休み明けの始業式ということになります。
しかし、この教師は大きな行事がある度に描いていると報じられていました。
小学校での大きな行事...運動会、音楽会、卒業式、他にも何かの発表会などでしょうか。そういった大きな行事がある度に時間を掛けて黒板アートを描いているとのことです。
大きな行事の前日の教師は準備に追われ、勤務時間内はその準備でいっぱいいっぱいだと思います。
例えば運動会...。
運動会の前日は午前中に通常通りの授業を行った後、午後から準備を始めるパターンが多いです。そして、終えるのはだいたい勤務時間外になります。
放送機器の準備を行ったり、運動場に白線を引いたり、保護者用の観覧席を作ったり、たくさんモノを運んだり...とにかく準備にかなりの時間が掛かります。
時間が掛かるとともに、肉体的にも疲労が溜まり、準備を終えた後の疲労感はかなりのものになっています。言うならば、小学校の頃の遠足から帰った後みたいな感じです...。
そして、集中力の長く持たない僕だからでしょうか、準備を終えた後の僕には働くことや何かをする気力は残っておらず、「早く帰ってお風呂に入りたい...」なんてことばかりを考えてしまっています。
そういった状況は僕だけではないように思います。「早く帰りたい。」という気持ちは誰もが持っているように思います。
それは、早く家に帰ってゆっくりして、次の日に備えたいという思いがあるからだと思います。本番である次の日に向けて体を休め、本番を100%の状態で迎えたいという気持ちがあるのだと思います。
そしてそれは、運動会だけでなく、全ての行事で言えることのように思います。
僕にとって大切なのは本番だと思っています。その本番に向けて100%の準備を行うことも大切な仕事だと思っています。
前日に遅くまで働き、本番にその疲れが残っているようでは良い仕事は出来ないように思います。
そういった意味でも、勤務時間内に仕事を終えることはとても大切な事だと思っています。そしてそれは、大きな行事がある時だけでなく、何もない日常でも同じことだと思っています。
ネットニュースに出ていた教師の事を悪く言うつもりもないし、一生懸命なその姿に尊敬の気持ちを持っています。
ただ、このニュースを美談として扱っていることに怖さを感じているのです。
はっきり言うと、「やめてくれ~!!」という気持ちにもなっているように思います。
世の教師がみんなこの教師のように、行事がある度に黒板アートを描くことは出来ません。
それは、別に楽をしたいという訳ではなく、他に大切にしている事があるということなのだと思います。
早く帰って体を休めることは、僕にとっては次の日に向けての準備だと思っています。
黒板アートを描かずに、早く帰って家でゲームをしている人がいても僕は全然良いと思っています。それをすることで心が安定し、次の日に良い仕事が出来るのであれば何の問題もないように思います。
子どもたちにとって良い行事が運営できるのであれば、黒板アートを描く事と同じ価値はあるように思います。
働き方は人それぞれです。大切なのは子どもたちがその行事を楽しい思い出に出来ることだと思います。
黒板アートを見て、それが楽しい思い出になる事もあるのかもしれません。
でも、心に余裕を持った教師と一緒にその行事に取り組めることも、子どもたちの良い思い出に繋がることだと僕は思っています。
僕には僕の大切にしている事があります。
こういったニュースに流されることなく、自分の大切にしていることを大切に出来るように「心に余裕」を持って日々の仕事に向き合いたいと思います。